２０１５年２月１５日（日） １５：００より、明治学院礼拝堂（チャペル）にて、オラトリオ「ヨブ」の演奏会が開かれました。
この作品は、明治学院で音楽を教えていた安部正義（１８９１〜１９７４）によって１９４５年頃に完成された、日本最初のオラトリオです。出版は遅れて１９６５年、初演は１９６７年に明治学院大学グリークラブにより明治学院白金チャペルにて行われています。日本のキリスト教音楽の歴史において重要な意味を持ち、明治学院の音楽遺産として位置づけられています。
安部正義は、１９２８年にアメリカ留学を終えて明治学院に職を得、音楽の授業や礼拝の伴奏を務めていました。かなり苦労したようですが、その苦労もヨブ記を読んで「自分の苦難など、ヨブに比べると何ほどのこともない」と思い、作曲に思い至ったそうです。戦前・戦中と作曲の筆を進め、防空壕の中でも五線紙を離さなかったと述べています。
これまでこのオラトリオに関してはほとんど研究されないままでした。没後翌年の１９７５年、追悼のため再び明治学院で全曲演奏会が行われていますが、その後は演奏の機会がありません。学院の文化遺産が風化してしまうことを防ぐために、明治学院歴史資料館が主催として演奏会を企画し、４０年ぶりに音になってよみがえることになりました。２００９年頃から資料の発掘や研究が進められ、その過程で新しくスケッチや録音資料が発見されて、楽譜もリニューアルされています。今後幅広い再演の機会を持てるように考え大編成のオーケストラでなく室内楽でも伴奏が可能なように編曲がなされました。練習の最中も編曲作業が進められ、最初に配られた楽譜とかなり違う音楽になってしまう曲もいくつもありました。
作品全体は聖書を題材にした日本語の歌詞を持つ合唱・重唱・独唱の３１曲からなります。同じく安部正義作曲の賛美歌「まぶねのなかに」の旋律を用いたコラール風合唱曲「エホバ与え、エホバ取り給う。エホバの御名は誉むべきかな」が何度も現れ、バッハの受難コラールのように作品のテーマを繰り返していきます（実際にはヨブのために書かれたのが先で賛美歌が後）。最後はこのテーマの音価を倍にしたり半分にしたりしたテーマがフーガのように現れる技巧的な曲で、圧倒的な終わりとなります。
題材となった旧約聖書の「ヨブ記」は、義しく豊かな人であったヨブが神の試練を受けて苦しみながらも信仰を曲げなかったことで、最後は神にふたたび財産や長寿を与えられるというストーリーです。ハッピーエンドは本当の終わりのところだけで全編かなり暗いです。羊や牧童などが奪われたり殺されたり、自分も重い病気にかかったりして、度重なる不幸に家族は神を呪いますがヨブは従容と苦難を受け入れます。遠くからやってきた友人は「神は罪人に対して罰を与えるので、今苦しんでいるヨブは何かの罪を犯したのではないか」といい、身に覚えのないヨブが反論するという調子で、記事の大部分がこの論争であるという珍しいスタイルです。ヨブの神に対しての信頼は揺らぐことは無いのですが、何故こうなるのかを問いたいという科白が続いた後、最後には嵐の中から現れた神との議論を経て、神の思し召しは人間の知恵を超えたものであることを再確認してクライマックスを迎えます。
正直、キリスト教徒でない自分にとっては受け入れがたいところもあり、歌って楽しい内容ではありませんが、理不尽な苦しみという点ではあの地震や津波や原発事故に通じるものがあります。答えのない問いに対して何か考える材料になればとも思います。ただ今の自分としてはこれらの理不尽さをヨブのようにすべて神の意志として受け入れることはまだできそうもありません。打ち上げの時にも皆で真剣に議論していましたが、つらい経験をされた方ほど共感できる点が多かったようです。
今回の演奏に際して有志の《ヨブ》記念合唱団が結成され、アンサンブルクライスの吉田さんの指導のもと練習を積んできました。出版から50年という節目に、この作品を生きたものとして伝えていきたいという明治学院の方々の思いも伝わり、良い準備ができたと思います。開演に先立っては曲の成り立ちや今回の演奏会の意義が語られ、「この場におられる方々に楽しんでいただくことで、この作品は再び命を得てよみがえることができると思います」という挨拶にて曲が始まりました。
オケやソリストも素晴らしく,合唱が出てくる５曲目までにヨブの世界を構築して頂いて、私達はそれに乗ってテンションの高いスタートが切れました。合唱はどちらかというと登場人物そのものよりもドラマを進めるナレーターの役割が割り振られていたのですが、アンサンブルの意識も高く、ストーリーに沿って曲の内容にふさわしい表現ができたと思います。
演奏会の締めくくりには、曲の中心となっているコラール（賛美歌）を聴衆も含めて全員で歌いました。初演の時からの伝統だそうです。この作品がまたどこかで歌われて、苦しんでいる人の助けに少しでもなるようにと願います。
日時：２０１５年２月１４日（日） １５時開演
会場： 明治学院白金チャペル
曲目：
安部正義：オラトリオ「ヨブ」
指揮： 安積 道也
オラトリオ《ヨブ》記念合唱団
東京バッハ・カンタータ・アンサンブル
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明治学院バッハ・アカデミー合唱団／白石キューブ合唱団 ジョイントコンサート（第３回）｜明治学院チャペルコンサート2014
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